スタジオジブリといえば、数々の長編映画が有名ですが、実は珠玉の短編作品も存在します。その中でも、私が特に心を奪われたのが、三鷹の森ジブリ美術館とジブリパークだけで上映されるオリジナル短編アニメーション『コロの大さんぽ』です。
わずか15分という短い時間の中に、仔犬の視点から見た壮大な冒険と、心温まる感動がぎゅっと詰まっています。今回は、この隠れた名作『コロの大さんぽ』の魅力について、あらすじや感想、気になる上映スケジュールまで詳しくご紹介します。
歴代のジブリ短編映画のあらすじはこちら
ジブリ短編『コロの大さんぽ』の基本情報
『コロの大さんぽ』は、単なる短編映画という言葉では片付けられない、スタジオジブリの魅力と実験精神が詰まった作品です。ここでは、その制作背景やスタッフ、作品の概要について、より深く掘り下げていきます。
作品の概要|監督や制作の背景
この作品は、三鷹の森ジブリ美術館の映像展示室「土星座」のために、宮﨑駿監督が原作・脚本・監督のすべてを手掛けて制作したオリジナル短編アニメーションです。2001年に制作され、美術館が開館した翌年の2002年から上映が始まりました。
物語の舞台となっているのは、スタジオジブリの拠点にも近い、東京の東小金井界隈をモデルにした住宅街です。宮﨑監督が慣れ親しんだ日常の風景を、仔犬の視点という特別なフィルターを通して描くことで、見慣れた景色が全く新しい冒険の舞台に生まれ変わっています。上映時間は約15分と短いですが、その中にはジブリらしい温かさと感動が凝縮されています。
項目 | 詳細 |
タイトル | コロの大さんぽ |
---|---|
原作・脚本・監督 | 宮﨑 駿 |
音楽 | 野見 祐二 |
制作 | スタジオジブリ |
公開年 | 2002年 |
上映時間 | 約15分 |
制作スタッフと音楽|作品を彩る才能
私がこの作品で特に注目するのは、それを支えた才能あふれるスタッフ陣です。美術監督を務めたのは吉田昇氏で、彼の生み出した色鉛筆で描いたような絵本的な背景美術が、作品全体の温かい雰囲気を決定づけています。この表現方法は、後の長編映画『崖の上のポニョ』の作画スタイルへと繋がる、重要な試みとなりました。
音楽を担当したのは、作曲家の野見祐二氏です。セリフが一切ないこの物語において、彼の作り出す優しくも壮大な音楽が、コロの心情や冒険のドキドキ感を豊かに表現し、観客を物語の世界へと引き込みます。さらに、原画スタッフには、後に『猫の恩返し』で監督を務めることになる森田宏幸氏も参加しています。
この作品での卓越した仕事ぶりが宮﨑監督に認められたことが、監督抜擢のきっかけとなったという逸話は、本作がジブリの次世代を育てる場としても機能したことを示しています。
『コロの大さんぽ』のあらすじと登場キャラクター
物語の舞台は、スタジオジブリがある東京郊外の街、東小金井です。主人公は、この街に住む少女サワ子に飼われている、元気いっぱいの仔犬コロ。
ある朝、サワ子が学校へ出かけた後、コロは彼女を追いかけて家の外へ飛び出してしまいます。生まれて初めて一人で踏み出した外の世界は、コロにとって驚きと危険に満ちた大冒険の始まりでした。
見慣れない景色、けたたましい音を立てて走り去る自動車、行き交う人々。すべてが巨大に見える世界で、コロは必死にサワ子の匂いを追いかけます。
一方、学校から帰ってきたサワ子は、コロの姿がないことに気づき、半狂乱で探し始めます。迷子のコロと、必死に探すサワ子。二人の視点が交錯しながら、物語は感動の再会へと向かっていきます。
登場キャラクター
この物語の主人公は、愛くるしい仔犬のコロと、その飼い主である心優しい少女サワ子です。
コロ
茶色い毛並みを持つ、元気で好奇心旺盛な仔犬。飼い主のサワ子が大好きで、後を追いかけて冒険に出ることになります。セリフはありませんが、その豊かな表情や仕草が、観る者の心を惹きつけます。
サワ子
コロの飼い主の女の子。コロをとても大切に思っており、いなくなったコロを涙ながらに探します。彼女のコロへの深い愛情が、物語の感動を一層引き立てます。
『コロの大さんぽ』の感想と見どころ
私が『コロの大さんぽ』を鑑賞して感じた魅力は、単なる「かわいい仔犬の物語」では終わらない、奥深さにあります。ここでは、特に心を打たれた見どころを3つのポイントに絞って解説します。
仔犬の視点から描かれる壮大な世界
この映画の最大の特徴は、徹底して仔犬の低い視点から世界を描いている点です。私たち人間が普段何気なく見ている道や自動車、自転車さえも、コロの目線から見ると、まるで巨大な怪物のように映ります。
この巧みな演出によって、見慣れたはずの日常風景が、全く新しい冒険の舞台として立ち現れます。観客はコロと一体となり、その興奮、恐怖、そして好奇心を追体験することになります。日常にこそ、壮大な冒険が隠れているという宮﨑監督の力強いメッセージを感じ取れるはずです。
絵本のような温かみのある作画
背景美術には、色鉛筆を使った絵本のようなタッチが全面的に用いられています。この独特の画風は、写真のようなリアルさとは一線を画し、手触り感のある温かい世界観を生み出しています。
この美術スタイルは、名作絵本『はじめてのおつかい』の影響を受けているといいます。無垢な仔犬の視点で描かれる物語と、この優しい作画が見事に調和し、観る者の心を和ませます。実はこの表現方法は、後の長編作品『崖の上のポニョ』にも繋がっていく、ジブリにとって重要な試みでした。
コロの愛くるしさとリアルな音響
主人公であるコロの動きは、仔犬特有の無邪気さや愛くるしさを驚くほどリアルに捉えています。ちょこちょこと歩く姿や、一生懸命に匂いを嗅ぐ仕草など、その一つひとつが生命感にあふれていて、思わず笑みがこぼれます。
さらに驚くべきは、コロの鳴き声です。声優が演じているのではなく、本物の仔犬の声を録音して使用しています。この徹底したリアリズムへのこだわりが、コロというキャラクターに確かな存在感を与え、物語への没入感を一層深めています。
『コロの大さんぽ』の上映スケジュールと視聴方法
『コロの大さんぽ』は常時公開されているわけではなく、三鷹の森ジブリ美術館とジブリパークの映像展示室で、他の短編作品と入れ替わりで上映されます。
鑑賞できる場所は2ヶ所だけ
この貴重な短編映画を鑑賞できるのは、世界でたった2ヶ所だけです。
- 三鷹の森ジブリ美術館(東京都三鷹市)|映像展示室「土星座」
- ジブリパーク(愛知県長久手市)|ジブリの大倉庫内 映像展示室「オリヲン座」
これらの施設以外で上映されることはなく、前述の通り、映像ソフト化やインターネット配信も行われていません。まさに、現地へ足を運んだ人だけが体験できる特別な贈り物なのです。
ジブリ美術館での上映
今月の土星座のえいがは、『コロの大さんぽ』
— 三鷹の森ジブリ美術館 Ghibli Museum, Mitaka (@GhibliML) July 1, 2024
この映画上映期間中は、“なりきりコロ”の子たちの「キャンキャン!」という声で満ちる中央ホール。
コロのぬいぐるみを大切そうにぎゅーと抱きしめて帰る子たちもよくお見かけします。https://t.co/Mpv6DujvIa pic.twitter.com/rIGIfxWCQd
『コロの大さんぽ』は、三鷹の森ジブリ美術館の映像展示室「土星座」で不定期で上映されます。
ジブリパークでの上映
本日3月10日14時から5月入場分のチケットを販売します。https://t.co/AT4ttrO0c3
— ジブリパーク GHIBLI PARK (@ghibliparkjp) March 10, 2024
「ジブリの大倉庫」映像展示室オリヲン座の5月上映作品は『コロの大さんぽ』です。https://t.co/K5wbp1GGSf
ジブリパークの「映像展示室オリヲン座」でも期間限定で上映されます。
まとめ

『コロの大さんぽ』は、わずか15分という短い上映時間の中に、冒険のドキドキと心温まる感動が凝縮された、スタジオジブリの隠れた名作です。仔犬の視点から描かれる世界、絵本のような優しい作画、そして限定された場所でしか出会えない特別感、そのすべてが魅力となっています。
この作品を鑑賞するためには、三鷹の森ジブリ美術館かジブリパークへ足を運ぶ必要がありますが、その価値は十分にあります。もし訪れる機会に恵まれ、『コロの大さんぽ』が上映されていたら、ぜひその愛らしい大冒険を見届けてみてください。きっとあなたの心に、温かい光を灯してくれるはずです。