『となりのトトロ』を見るたび、私は4歳のメイの行動に心を奪われます。彼女は、ただ元気で可愛いだけの妹ではありません。
一見すると、お姉ちゃんの学校についていくと駄々をこねたり、お母さんの退院が延びたと知って癇癪を起したりする姿は、「ワガママ」に見えるかもしれません。しかし、あれこそが宮崎駿監督による「4歳児の心理」の天才的な描写です。
この記事では、メイの行動が単なるワガママではなく、子供のリアルな心理と物語の重要な核であることを徹底的に解説します。
メイはワガママ?4歳児のリアルな心理描写
メイの行動は、4歳という年齢の子供の心理を驚くほど正確に映し出しています。彼女の行動を「ワガママ」の一言で片付けるのは、あまりにも早計です。
好奇心と恐れ知らずの大胆さ
メイの最大の魅力は、その無限の好奇心と大胆さです。新しい家に着くやいなや、彼女は一人で探検を始めます。
まっくろくろすけを見つけても怖がらずに捕まえようとし、小さなトトロを追いかけて森の奥深くへと入っていきます。あの巨大なトトロと遭遇しても、彼女は物怖じしません。それどころか、トトロのお腹の上で眠り込んでしまいます。この恐れを知らない純粋さが、大人には見えない不思議な世界への扉を開く鍵となります。
「ワガママ」に見える行動の本当の理由
物語の中で、メイは何度か感情を爆発させます。サツキの学校についていくと泣き叫ぶシーンや、お母さんの退院が延期になったと聞いて家出同然に飛び出すシーンがそれです。
しかし、これらの行動は、彼女が置かれた状況を考えれば理解できます。一家は、お母さんの病気という大きな不安を抱えながら、慣れない田舎へ引っ越してきました。4歳の子供にとって、これはとてつもないストレスです。
大人のように感情をうまく処理したり、我慢したりすることがまだできません。彼女の癇癪は、言葉にできない不安や寂しさ、失望の直接的な表現です。私が思うに、メイは家族が抱える見えない不安を、一身に背負って代弁していたのです。
不安の裏返し|子供の防衛機制
メイのセリフには、子供特有の心理が隠されています。例えば、お化け屋敷を探検するときに「怖くないもん!」と叫ぶ姿です。
これは、本当は怖いという気持ちを隠すための行動です。心理学では「反動形成」と呼ばれるもので、子供が不安に対処するためによく使う心の働きです。彼女の言動は、4歳児の複雑な内面を見事に描き出しています。
メイが果たした物語の重要な役割
メイは、ただ守られるだけの幼い妹ではありません。彼女の行動こそが、『となりのトトロ』という物語を動かす最大の原動力です。
トトロを発見した「見えざる世界への架け橋」
この物語の主役であるトトロを最初に見つけたのは、メイです。彼女の純粋な好奇心が、大人には見えない森の主へとつながる道を開きました。
有名な「トトロ」という名前も、メイが名付け親です。トトロの咆哮を聞いたメイが、絵本に出てくる「トロール(トロル)」だと思い込み、「トトロ」と呼びます。彼女の「言い間違い」が、そのまま森の主の名前になるのです。このエピソードは、子供の認識が世界を形作るという、この映画のテーマを象徴しています。
物語のクライマックスを生んだ衝動
映画のクライマックス|サツキがトトロに助けを求め、ネコバスが疾走するあのシーンは、すべてメイの行動から始まります。お母さんの退院が延期になり、姉のサツキが泣き崩れる姿を見たメイ。
4歳の彼女なりに「私がなんとかしなきゃ」と考えます。「お母さんにトウモロコシを届ければ治る」と信じて、たった一人で病院へ向かおうとします。この無謀とも思える行動が、物語最大の危機を生み出します。
しかし、この危機があったからこそ、サツキは「良い子」でいることをやめ、心の底からトトロに助けを求めることができました。メイの「ワガママ」に見えた行動が、結果的に家族の絆を強め、魔法の力を引き出すきっかけとなったのです。
キャラクター誕生の裏側|サツキとメイは一人だった?

今や国民的なキャラクターであるメイですが、その誕生には制作上の大きな変更がありました。
メイの基本プロフィール|名前の由来
草壁メイは4歳。お父さんのタツオ、お姉さんのサツキと共に、病院の近くの古い家に引っ越してきます。
彼女の名前「メイ(May)」は英語の5月を意味します。これは、お姉さんの「サツキ(皐月)」が日本の旧暦で5月を意味することと対になっています。この名前からも、二人が深くつながっていることが分かります。
初期構想|主人公を二人にした理由
『となりのトトロ』の初期構想では、主人公はサツキとメイを合わせた一人の少女でした。映画のポスターに描かれている少女が、メイよりも年上に見え、サツキほど大人びていないのは、その名残です。
制作の途中で、物語により深みを持たせるため、主人公は二人の姉妹に分けられました。宮崎監督は、最初にトトロと出会うのは、より幼く物怖じしない子供であるべきだと考え、メイが誕生しました。
しっかり者で我慢しがちな姉のサツキと、感情豊かで衝動的な妹のメイ。この対照的な二人がいることで、子供時代が持つ二面性や、姉妹の絆というテーマがより鮮やかに描かれました。
メイの声優は誰?日本語版と英語版の違い
メイの魅力を最大限に引き出しているのが、声の演技です。日本語版と英語版では、異なるアプローチが取られています。
日本語版|坂本千夏の圧倒的な表現力
オリジナルの日本語版でメイの声を担当したのは、ベテラン声優の坂本千夏さんです。「おじゃまたくし(おたまじゃくし)」や「トウモコロシ(とうもろこし)」といった、幼い子供特有の愛らしい言い間違い。
そして、無邪気に笑う声から、不安で泣き叫ぶ声まで、その圧倒的な表現力は「天才的」の一言に尽きます。坂本さんの声があったからこそ、メイはあれほど生き生きとしたキャラクターになりました。
英語版|ディズニー版は本物の姉妹を起用
『となりのトトロ』には複数の英語吹き替え版が存在します。私が特に興味深いと感じるのは、2005年のディズニー版です。
このバージョンでは、メイの声をエル・ファニングが、姉のサツキの声を実の姉であるダコタ・ファニングが担当しました。本物の姉妹を起用することで、セリフの掛け合いに自然な姉妹の化学反応が生まれ、オリジナルとはまた違ったリアリティを生み出しています。
バージョン | メイの声優 | サツキの声優 | 特徴 |
日本語 (オリジナル) | 坂本 千夏 | 日髙 のり子 | ベテラン声優による卓越した演技 |
英語 (ディズニー版) | Elle Fanning | Dakota Fanning | 実の姉妹を起用した自然な掛け合い |
まとめ

『となりのトトロ』のメイは、決して「ワガママ」なキャラクターではありません。彼女は、4歳児の純粋さ、大胆さ、そして不安や恐怖に対する未熟な反応を、ありのままに体現した存在です。
私が彼女に惹きつけられるのは、その完璧ではない人間らしさ、子供らしさです。メイの行動が物語を動かし、危機を生み、そして魔法を呼び込みます。彼女は、この不朽の名作のまさしく心臓部と言えるでしょう。