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草壁シトヒ
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安田成美の歌はなぜ?『風の谷のナウシカ』で使われなかった曲の謎と本当の劇中歌

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映画『風の谷のナウシカ』の音楽には、多くの人が知らない二つの側面があります。一つは、有名な歌手が歌いながらも映画本編では決して流れることのない「幻の歌」。もう一つは、物語と一体となり、日本アニメの音楽を新たな次元へと引き上げた、真の劇中歌です。

この記事では、この二つの音楽の物語を解き明かし、なぜ安田成美さんの歌が使われなかったのか、そして映画の感動を実際に作り上げた音楽は何か、その謎に迫ります。

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安田成美の歌はなぜ使われなかった?幻のテーマソングの謎

映画のプロモーション用に作られた安田成美さんの歌う「風の谷のナウシカ」。この曲はテレビCMなどで大々的に使われましたが、本編では一切使用されませんでした。その背景には、制作者たちの強いこだわりと芸術的な判断がありました。

ドリームチームによる楽曲制作とプロモーション戦略

『風の谷のナウシカ』の成功を確実にするため、徳間書店は強力なプロモーション戦略を打ち出しました。その中心にあったのが、シンボル・テーマソングの制作です。このプロジェクトには、日本の音楽界を代表する才能が集結しました。

作詞は伝説のロックバンド「はっぴいえんど」のメンバーであり、数々のヒット曲を生んだ松本隆。作曲は、同じく「はっぴいえんど」を経て「YMO」で世界的な成功を収めた細野晴臣。この二人がタッグを組むだけで、大きな話題となりました。そして、ボーカルには「ナウシカ・ガール」コンテストで選ばれた新人女優、安田成美が抜擢され、この曲で歌手デビューを飾ります。

この楽曲は、映画の物語に寄り添うというより、ナウシカというブランドを世に広めるための独立した商業作品として考えられていました。松本隆と細野晴臣というビッグネームを起用し、新人アイドルと組み合わせる手法は、当時主流だったメディアミックス戦略そのものです。しかし、この商業的なアプローチが、後に監督たちの芸術的なビジョンと衝突することになります。

宮崎駿と高畑勲の芸術的判断と文化的影響

安田成美が歌うテーマソングは、予告編やCMで広く使われたにもかかわらず、映画本編では流れませんでした。これは単なるミスではなく、監督である宮崎駿とプロデューサー高畑勲による意図的な決断でした。彼らは、この曲の持つアイドル歌謡のような雰囲気が、映画の重厚な世界観を壊してしまうと強く懸念したのです。

特に高畑勲は、制作会社の商業的な圧力を「体を張って」拒んだと、後にプロデューサーの鈴木敏夫が語っています。これは、作品の芸術的完全性を何よりも優先するという、作り手の断固たる意志の表れでした。この戦いこそが、後のスタジオジブリの「外部の圧力からクリエイターのビジョンを守る」という哲学の礎を築いたのです。

面白いことに、この曲が使われなかった事実は、一種の文化的「マンデラ効果」を生み出しました。多くのファンが「映画館のエンディングで聴いた」と記憶違いをしていたのです。この記憶のズレは、プロモーションで深く刷り込まれた印象と、本編の記憶が混ざってしまった結果と考えられます。この歌の「不在」は、作品の芸術性を守ったジブリの勝利の証として、今や伝説として語り継がれています。

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本当の劇中歌|久石譲が創造したナウシカの世界

安田成美の歌が使われなかった一方で、映画の魂として観客の心に深く刻まれたのが、作曲家・久石譲による音楽です。彼の音楽こそが、ナウシカの世界観を完璧に表現し、物語に生命を吹き込みました。

ミニマル音楽との出会いとイメージアルバム

当時まだ無名に近かった久石譲は、現代音楽、特にミニマル・ミュージックの作曲家として活動していました。彼の実験的で反復的ながらも美しい音楽スタイルが、宮崎駿監督の求める「腐海」の異質で神秘的なイメージと奇跡的に合致したのです。

久石は正式なオファーの前に、原作漫画からインスピレーションを得て音楽を作る「イメージアルバム」の制作を依頼されます。そこで作られた楽曲群は、腐海の不気味さと神聖さを見事に表現しており、宮崎監督と高畑プロデューサーを感嘆させました。このイメージアルバムの成功が、久石譲を映画本編の音楽担当として起用する決定打となり、ここから伝説的なパートナーシップが始まったのです。

久石の音楽は、伝統的な映画音楽とは一線を画していました。ミニマル・ミュージックの要素と壮大なオーケストレーションを融合させることで、「ミニマルな質感」と「交響的なメロディ」が共存する、全く新しい「ジブリサウンド」の原型を創り出したのです。

映画を彩る真の劇中歌と『ナウシカ・レクイエム』の誕生秘話

久石譲が手掛けたサウンドトラックは、映画のあらゆる場面でその世界観を深めています。

主要楽曲特徴
風の伝説映画のオープニングを飾る曲。神秘的なミニマル・フレーズから壮大なオーケストラへ展開し、物語のスケールを提示します。
戦闘トルメキア軍の侵攻シーンなどで使われる力強い曲。クラシックと現代的なリズムが融合し、戦いの激しさを表現します。
腐海にてシンセサイザーを駆使し、腐海の神秘性と生命の根源的な美しさを描いたアンビエントな曲です。
鳥の人クライマックスからエンディングで流れるテーマ。希望に満ちた感動的なオーケストラ曲で、観客にカタルシスを与えます。

そして、この映画の音楽を語る上で欠かせないのが、クライマックスで流れる「ナウシカ・レクイエム」です。この「ラン、ランララ、ランランラン…」という純粋無垢な歌声は、実は当時4歳だった久石譲の娘、麻衣によるものです。

クライマックスにふさわしい「究極の無垢」を表現する声を探していた久石は、試しに娘に歌わせてみました。その技術的に未熟ながらも純粋な歌声こそ、彼が探し求めていた音だったのです。この偶然の産物である「本物の声」が、ナウシカの自己犠牲と奇跡の復活という、映画史に残る名場面をあれほど感動的なものにしています。

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二つの音楽が織りなす『風の谷のナウシカ』の音楽的遺産

安田成美の「幻の歌」と、久石譲の「真の劇中歌」。この二つの対照的な音楽は、それぞれが独自の物語を持ちながら、『風の谷のナウシカ』という作品の神話をより豊かにしています。

商業主義と芸術性の対立が生んだ豊かな物語

結果として、『風の谷のナウシカ』の音楽史は、商業的なポップソングと芸術的に統合されたスコアという、二つの側面を持つことになりました。これは映画製作における商業と芸術の緊張関係を象徴しています。

逆説的ですが、安田成美の歌をめぐる「使われなかった」という論争やファンの記憶違いといったエピソードが、映画の伝説をさらに興味深いものにしました。このメタな物語が、作品を単なるアニメーション映画から、世代を超えて語り継がれる文化的アイコンへと押し上げた一因です。

最終的に、映画本編で久石譲の音楽が勝利した事実は、スタジオジブリのアイデンティティを決定づけました。マーケティングよりも世界観の構築と芸術的完成度を優先するというこの決断は、その後のジブリ作品すべての根幹を成す哲学となったのです。

ジブリサウンドの原点と後世への影響

『ナウシカ』で確立された久石譲の音楽スタイルは、その後のジブリ作品に深く受け継がれていきます。ミニマリズム、クラシック、電子音楽、そして民謡的なメロディを融合させる手法は、今や世界が認める「ジブリサウンド」の設計図となりました。

『天空の城ラピュタ』の壮大なオーケストラ、『となりのトトロ』の心温まるメロディ、『もののけ姫』のドラマティックな響き。これらの名曲のルーツは、すべて『ナウシカ』にあります。この作品の成功は、アニメのサウンドトラックを単なる背景音楽から、独立した芸術作品へと昇華させ、国内外の多くの作曲家に影響を与え続けているのです。

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まとめ

『風の谷のナウシカ』の音楽は、その不在によって伝説となった安田成美の歌と、その存在によって不朽の名作たらしめた久石譲のスコアという、二つの物語を持っています。

商業的な野心と芸術的な探求心が衝突し、そして融合することで生まれたこの複雑な音楽的背景こそが、作品に尽きることのない深みと魅力を与えています。歌われた音、奏でられた音、そしてあえて使われなかった音のすべてが、この映画の記念碑的な遺産を築き上げているのです。

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