スタジオジブリといえば、心温まる物語と美しいアニメーションで世界中のファンを魅了する作品ばかりです。しかし、その輝かしいフィルモグラフィーの中に、少し異質で実験的な作品が存在することをご存知でしょうか。それが『ギブリーズ』です。
私が初めてこの作品を知ったとき、「これが本当にジブリの作品なのか」と驚きました。今回は、あまり知られていない『ギブリーズ』の魅力と、今や幻となった初回作の謎に迫ります。この作品を知れば、あなたのジブリ観が少し変わるかもしれません。
歴代のジブリ短編映画のあらすじはこちら
ジブリ短編『ギブリーズ』の基本情報
『ギブリーズ』は、スタジオジブリの日常やスタッフをモデルにした、コミカルで実験的な短編アニメーション集です。実はこの作品、大きく分けて2つのバージョンが存在します。
その起源は、スタジオジブリのプロデューサーである鈴木敏夫氏が描いていたスタッフの似顔絵でした。その絵に宮崎駿監督が体を描き加えたことから、このユニークな企画がスタートしたのです。
幻の初回作『ギブリーズ episode1』
『ギブリーズ episode1』は、2000年にテレビで一度だけ放送された作品です。長らくソフト化されず、ごく一部のファンしか見たことがないため、「幻の作品」と呼ばれていました。
この作品は、後の劇場版の原型ともいえる内容で構成されています。キャラクターの声は、モデルとなったジブリのスタッフ本人が担当するなど、非常に内輪向けで実験的な作りが特徴です。
劇場公開された『ギブリーズ episode2』
多くの人が『ギブリーズ』として認識しているのは、こちらの『episode2』です。2002年に映画『猫の恩返し』と同時上映で公開されました。
こちらはプロの声優や俳優がキャスティングされ、映像のクオリティも格段に向上しています。テレビ版のアイデアをさらに発展させ、より多くの人が楽しめるエンターテインメント作品として完成しました。
特徴 | ギブリーズ episode1 | ギブリーズ episode2 |
公開 | 2000年4月8日(TV放送) | 2002年7月20日(劇場公開) |
フォーマット | テレビスペシャル | 劇場用短編アニメーション |
監督 | 百瀬義行 | 百瀬義行 |
同時上映 | なし | 『猫の恩返し』 |
視聴方法 | 特定のBOXセットのみ収録 | 『猫の恩返し』のDVD/Blu-rayに収録 |
『ギブリーズ』のあらすじ
『ギブリーズ』は、架空のアニメーション制作会社「スタジオギブリ」で働く個性的なスタッフたちの日常を描いたオムニバス形式の作品です。それぞれの短編は、全く異なる雰囲気を持っています。
episode1
幻の『episode1』は、後の『episode2』の原型となるいくつかの短いスケッチで構成されています。全体的にラフで、手作り感あふれる作風が特徴です。
キャラクター紹介と日常スケッチ
物語は、「スタジオギブリ」で働く野中くんや奥ちゃんといったキャラクターたちの紹介から始まります。鼻を動かして食事をするキャラクターや、野中くんの淡い初恋の思い出など、シュールでコミカルな日常の一コマが断片的に描かれます。
リアルとフィクションの融合
作中には、実際のジブリ社内の新年会の写真が使われるなど、フィクションと現実が入り混じった独特の表現が見られます。これにより、スタジオジブリの内部をこっそり覗いているような不思議な感覚を味わえます。
episode2
劇場公開された『episode2』は、より物語性が強く、洗練された短編集に仕上がっています。私が特に好きなエピソードをいくつか紹介します。
カレーなる勝負
この短編は、野中くん、奥ちゃん、ゆかりさんの3人がお昼ご飯を食べに出かける物語です。激辛カレーの店に入ったことから、とんでもない騒動に発展します。
特に、辛さに耐えるゆかりさんのシュールなリアクションは必見です。コミカルなドタバタ劇の中に、キャラクターたちの個性が見事に表現されています。
初恋
『episode1』でも描かれた野中くんの初恋のエピソードが、全く新しい映像表現で描かれています。クレヨンで描いたような温かみのあるタッチは、ノスタルジックな記憶の世界を見事に表現しています。
小学生の頃の淡い思い出と切ない感情が、セリフではなく映像で語られます。多くの人が「この短編が一番心に残った」と語る、感動的な作品です。
『ギブリーズ』の見どころ
この作品は、一般的なジブリ映画とは全く異なる魅力を持っています。私が考える『ギブリーズ』ならではの見どころを解説します。
スタジオジブリの「内輪ネタ」
『ギブリーズ』の最大の魅力は、スタジオジブリの日常を垣間見れることです。登場するキャラクターは、プロデューサーの鈴木敏夫氏をはじめ、実在のスタッフがモデルになっています。
彼らの口癖や性格がキャラクターに反映されており、ジブリファンにとってはたまらない「内輪ネタ」が満載です。この作品を見ることで、あの名作たちがどのような雰囲気の場所で生み出されているのかを想像できます。
百瀬義行監督による映像実験
監督を務めた百瀬義行氏は、CGアニメーションの第一人者としても知られています。『ギブリーズ』は、彼が様々な映像表現に挑戦した「ジブリ実験劇場」です。
短編 | 映像スタイルの特徴 |
カレーなる勝負 | セルルック3DCGを効果的に使用したコミカルな表現 |
初恋 | 手描き感あふれる、絵画のようなテクスチャ |
ダンス | 物語を排し、音楽と抽象的な動きだけで構成 |
このように、短編ごとに全く異なるビジュアルスタイルを採用しています。ジブリの伝統的な手描きアニメーションとは一味違う、デジタル時代の新しい表現への挑戦が見て取れます。
まとめ
『ギブリーズ episode1 & 2』は、スタジオジブリの遊び心と創造性が詰まった、まさに「知る人ぞ知る」名作です。華やかな長編作品の裏側で、アニメーターたちが純粋に楽しみながら作ったであろうエネルギーが画面から伝わってきます。
幻の『episode1』を見るのは少し難しいですが、劇場版の『episode2』は『猫の恩返し』のDVDやBlu-rayに特典映像として収録されています。普段見ているジブリ作品とは全く違う、シュールで、おかしくて、そしてどこか温かい世界をぜひ体験してみてください。この作品は、スタジオジブリという創作集団の人間味あふれる素顔を教えてくれる、貴重な一枚のアルバムのような存在です。