スタジオジブリ制作、高畑勲監督による不朽の名作アニメーション映画「おもひでぽろぽろ」。
1982年の夏、東京で働く27歳のOL・岡島タエ子が、休暇を利用して訪れた山形の農村で、自身の小学5年生時代の思い出と向き合いながら成長していく物語です。
この作品の魅力は、美しい田園風景やノスタルジックな描写は当然のことながら、登場人物たちの生き生きとしたキャラクター造形と、それを表現する声優陣の素晴らしい演技にあります。
大人になったタエ子の内省的なモノローグ、子供時代のタエ子の瑞々しい感情、そして彼女を取り巻く個性豊かな人々の声。
この記事では、「おもひでぽろぽろ」に登場する主要なキャラクターと、その声を担当した豪華声優陣を詳しく紹介します。
作品の世界をより深く味わうために、ぜひキャラクターと声優の情報に触れてみてください。

主人公・岡島タエ子の二つの声

ここでは、物語の中心人物であるタエ子の、大人時代と子供時代の声を担当した声優について解説します。二つの時代のタエ子を演じ分ける声優の演技が、物語の深みを増しています。
大人のタエ子|今井美樹
27歳の岡島タエ子の声を担当したのは、歌手であり女優としても活躍されていた今井美樹さんです。
都会でのOL生活にどこか物足りなさを感じ、自分自身のルーツや生き方を見つめ直すため、山形への旅に出ます。その旅の過程で、小学5年生の頃の思い出と向き合い、成長していくタエ子の繊細な心の動きを、今井さんの声が見事に表現しています。
落ち着いたトーンの中に、迷いや田舎への憧れ、自己発見への静かな決意が込められており、観客をタエ子の内面世界へと自然に引き込みます。
高畑勲監督は、アニメーションにおけるリアリティを重視し、キャラクターの年齢や状況に合った「生の声」を求めていました。当時すでに歌手・女優として確固たる地位を築いていた今井美樹さんの起用は、大人のタエ子が持つある種の成熟さや人生経験の深みを表現する上で、非常に効果的だったと言えるでしょう。
小学5年生のタエ子|本名陽子
物語の重要な部分を占める1966年の回想シーン。そこで描かれる活発で感受性豊かな小学5年生(10歳)のタエ子の声は、当時新人だった本名陽子さんが担当しました。
驚くことに、本作は本名陽子さんにとって声優としてのデビュー作でした。彼女は子役としての経験はありましたが、アニメ声優としては未知数。この重要な役に新人を抜擢したことからも、高畑監督の強いこだわりがうかがえます。
監督は、完成された技巧よりも、10歳の少女が持つであろう自然で、時に不器用さも感じさせるような「生々しさ」を求めたのでしょう。分数の割り算に悩み、初めて食べるパイナップルの味に驚き、淡い初恋に胸をときめかせるといった、小学5年生のタエ子の日常と感情の起伏が、本名陽子さんの声によって瑞々しく、等身大の魅力をもって描かれています。
彼女の演技によって、観客はタエ子の「おもひで」の一つひとつを、まるで自身の体験のように鮮やかに感じ取ることができます。このタエ子役は、本名陽子さんの声優としてのキャリアの輝かしい出発点となり、その後『耳をすませば』の月島雫役など、数々の代表作を持つ人気声優へと成長していくことになります。
タエ子を支える青年・トシオの声

ここでは、タエ子が山形で出会い、彼女の心に大きな影響を与える重要なキャラクター、トシオと、その声を担当した俳優について紹介します。
トシオ|柳葉敏郎
タエ子が姉の嫁ぎ先の親戚を頼って訪れた山形で出会い、農業を通じて交流を深めていく青年トシオ。その朴訥としながらも芯の強さを感じさせる声は、俳優として確固たる地位を築いていた柳葉敏郎さんが担当しました。
トシオは、サラリーマン生活を経て、有機農業に情熱を燃やす25歳の青年です。タエ子より2歳年下ですが、自然と共に生きる実直さや、達観したような落ち着きを持っています。
柳葉敏郎さんの起用も、今井美樹さんと同様に、高畑監督のリアリティ志向のキャスティング戦略の一環と考えられます。主に実写で活躍する俳優を起用することで、アニメ的な類型ではない、地に足の着いた存在感を与えようとしたのでしょう。
柳葉さんの少しぶっきらぼうながらも温かみのある声質は、トシオの飾らない人柄、大地に根ざした力強さ、そしてタエ子の心に変化をもたらす触媒としての役割を、説得力をもって伝えています。彼の声が、トシオというキャラクターに深い人間味を与え、作品全体のリアリティラインを高めています。
タエ子を取り巻く人々

ここでは、主人公タエ子の物語を豊かに彩る家族や友人たち、そして山形の人々と、その声を担当した声優陣を紹介します。彼らの存在が、物語に温かみと生活感を与えています。
岡島家の家族たち
タエ子の回想シーンに登場する1966年の岡島家の人々は、当時の日本の典型的な家庭像を映し出しています。個性豊かな家族と、その声を担当した声優を見ていきましょう。
タエ子の母|寺田路恵
専業主婦として家事や子育てに奮闘する、タエ子の母親です。時には厳しく叱り、時には娘のわがままに呆れながらも、家族を温かく支える存在です。ベテラン女優の寺田路恵さんが、その安定感のある演技で、着物と割烹着姿が似合う、生活感あふれる昭和の母親像を見事に表現しています。
タエ子の父|伊藤正博
寡黙なサラリーマンであるタエ子の父親です。一家の長として厳格な一面もありますが、末娘のタエ子には少し甘いところも見せます。伊藤正博さんが、多くを語らずともその存在感を示す、威厳と優しさを兼ね備えた父親の声を当てています。
タエ子の祖母|北川智絵
岡島家で同居している、控えめで落ち着いた性格のおばあちゃんです。いつも静かに家族を見守っています。北川智絵さんの穏やかで温かい声が、おばあちゃんの優しい眼差しを感じさせます。
長姉・ナナ子|山下容莉枝
タエ子の長姉で、当時は美大に通う大学生です。流行に敏感でミーハーな性格が描かれています。山下容莉枝さんが、当時の若者らしい明るく華やかな雰囲気を表現しています。後にタエ子が山形を訪れるきっかけを作る人物でもあります。
次姉・ヤエ子|三野輪有紀
タエ子の次姉で、当時は高校生です。現実的でしっかり者な性格で、夢見がちなタエ子とはよく衝突します。三野輪有紀さんが、思春期らしい少し尖った感じや、姉妹間のリアルな関係性を巧みに演じています。
小学5年生時代の友人たち
タエ子のノスタルジックな記憶を彩る、小学5年生時代のクラスメイトたちも、物語に欠かせない重要な存在です。彼らとの出来事が、タエ子の「おもひで」を形作っています。
谷ツネ子|飯塚雅弓
裕福な家庭で育ち、少しおませで気の強いクラスメイトです。理屈っぽいところがあり、タエ子と意見がぶつかることもあります。後に『ポケットモンスター』のカスミ役などで人気声優となる飯塚雅弓さんが、子供ながらに大人びたツネ子のキャラクターを的確に演じています。
広田秀二|増田裕生
クラスの人気者で、野球部のエースピッチャーです。爽やかで運動神経抜群な広田くんは、タエ子の淡い初恋の相手とも言える存在です。こちらも後に声優として活躍する増田裕生さんが、溌剌とした少年らしい雰囲気を好演しています。
あべく|佐藤広純
貧しい家庭から転校してきた、少し不潔な印象の少年です。クラスでは浮いた存在ですが、タエ子に対して密かな想いを抱いているような描写もあります。佐藤広純さんが、複雑な背景を持つ少年の役どころを演じています。
その他のクラスメイト
脱脂粉乳が苦手な野球少年のスー(鈴木)(声|石川匡)、タエ子の仲良しグループのアイ子(声|押谷芽衣)、トコ(声|小峰めぐみ)、リエ(声|滝沢幸代)など、多くの声優陣がタエ子の学校生活の風景を生き生きと描き出しています。
山形の人々
1982年の夏、タエ子が山形で出会う人々も、物語に深みを与えています。彼らとの交流を通じて、タエ子は自然の素晴らしさや農業の厳しさ、そして人の温かさに触れていきます。
カズオ|後藤弘司
タエ子の長姉ナナ子の夫の又従兄弟にあたる人物で、山形で農業を営んでいます。タエ子を快く迎え入れ、農作業などを手伝わせてくれます。後藤弘司さんが、実直で働き者の農家の男性を演じています。
キヨ子|石川幸子
カズオの妻で、タエ子の世話をしてくれる優しい女性です。農家の嫁としてのたくましさも持ち合わせています。石川幸子さんが、その明るくしっかりとした人柄を表現しています。
ナオ子|渡辺昌子
カズオとキヨ子の娘で、中学生です。最初は都会から来たタエ子に少し壁を作っていましたが、次第に打ち解け、懐くようになります。渡辺昌子さんが、多感な時期の少女の心の揺れ動きを演じています。
ばっちゃ|伊藤シン
カズオの母であり、一家のまとめ役でもある元気なおばあちゃんです。長年、厳しい自然の中で農業に携わってきた経験からくる深みと厳しさ、そして優しさを併せ持っています。伊藤シンさんが、その存在感あふれる声を当てています。
トシオの母|仙道孝子
有機農業に取り組む息子トシオを、温かく見守る母親です。仙道孝子さんが、その包容力のある母親像を演じています。
脇役にも注目!未来のスターとベテラン声優

「おもひでぽろぽろ」は、主要なキャラクターだけでなく、脇を固めるキャストにも注目すべき点があります。後の有名俳優や、ベテラン声優が参加しています。
若き日の高橋一生
現在、日本を代表する実力派俳優として広く認知されている高橋一生さんが、本作に「同級生」や「その他」といった役でクレジットされています。
具体的な役柄までは特定されていませんが、後の大スターがキャリアの非常に早い段階で、このような形でジブリ作品の制作現場に参加していたという事実は、映画ファンにとって感慨深く、興味深いポイントではないでしょうか。才能ある若者が、たとえ小さな役であっても、質の高い作品作りの現場に集っていたことを示唆しています。
ベテランの存在感|永井一郎
タエ子の空想シーンや、テレビ番組の音声として登場するキャラクター、「トラヒゲ」や「ドン・ガバチョ」(人形劇『ひょっこりひょうたん島』より)の声には、日本声優界のレジェンドとも言える永井一郎さんが起用されています。
永井さんといえば、『サザエさん』の磯野波平役や『ゲゲゲの鬼太郎』(第1・2作)の子泣き爺役などで知られる大ベテランです。ほんの短い登場シーンであっても、永井さんのようなベテラン声優の参加は、作品に確かな厚みと、独特のユーモアをもたらしています。
『おもひでぽろぽろ』声優キャスト一覧

ここで、映画『おもひでぽろぽろ』の主要な日本語版声優キャストを一覧表でまとめます。多彩な顔ぶれが、この作品の世界を作り上げていることがわかります。
役名 | 声優 |
---|---|
岡島 タエ子 (大人・27歳) | 今井 美樹 |
岡島 タエ子 (小5・10歳) | 本名 陽子 |
トシオ | 柳葉 敏郎 |
タエ子の母 | 寺田 路恵 |
タエ子の父 | 伊藤 正博 |
タエ子の祖母 | 北川 智絵 |
岡島 ナナ子 (長姉) | 山下 容莉枝 |
岡島 ヤエ子 (次姉) | 三野輪 有紀 |
谷 ツネ子 (クラスメイト) | 飯塚 雅弓 |
アイ子 (クラスメイト) | 押谷 芽衣 |
トコ (クラスメイト) | 小峰 めぐみ |
リエ (クラスメイト) | 滝沢 幸代 |
スー (鈴木) (クラスメイト) | 石川 匡 |
広田 秀二 (同級生) | 増田 裕生 |
あべくん (転校生) | 佐藤 広純 |
カズオ (山形の親戚) | 後藤 弘司 |
キヨ子 (カズオの妻) | 石川 幸子 |
ナオ子 (カズオの娘) | 渡辺 昌子 |
ばっちゃ (山形の祖母) | 伊藤 シン |
トシオの母 | 仙道 孝子 |
担任の先生 | 近藤 芳正 |
駅員 | 古林 嘉弘 |
トラヒゲ / ドン・ガバチョ | 永井 一郎 |
同級生 / その他 | 高橋 一生 |
近所の6年生 / その他 | 岩崎 ひろみ |
「おもひでぽろぽろ」の魅力は、美しい映像や心温まるストーリーに加えて、登場人物たちの声を担当した声優陣の素晴らしい演技によって、より一層深められています。
今井美樹さん、本名陽子さん、柳葉敏郎さんといった主要キャストをはじめ、脇を固めるベテラン俳優、声優、そして当時新人だった若手まで、多彩な才能が集結しました。
高畑勲監督のリアリティを追求する演出意図に基づいたキャスティングは、キャラクターに命を吹き込み、観客の心に深く響く感動を生み出しています。
大人のタエ子の内省的な声、子供時代のタエ子の瑞々しい声、そして山形の人々の温かい声。
それぞれの声の響きが、作品の繊細な世界観とテーマ性を見事に表現しています。
次に「おもひでぽろぽろ」を観る機会があれば、ぜひ登場人物たちの声に耳を澄ませてみてください。きっと新たな発見や感動があるはずです。
