『君たちはどう生きるか』と聞くと、多くの人は吉野源三郎による児童小説を思い浮かべるかもしれません。
しかし、近年話題になったスタジオジブリ作品『君たちはどう生きるか』には、もう一つの原作とされる作品が存在します。
本記事では、二つの原作『吉野源三郎著 君たちはどう生きるか』と『ジョン・コナリー著 失われたものたちの本』について詳しく解説し、両作品の関係性を探ります。
吉野源三郎著『君たちはどう生きるか』とは?

吉野源三郎による『君たちはどう生きるか』は、1937年に初版が刊行された日本の児童文学作品です。
物語は、15歳の少年コペル君が、日常生活での経験を通じて成長していく姿を描きます。
登場人物の叔父が書き残す「ノート」を交えた二重構造が特徴です。
吉野源三郎の思想と背景
吉野源三郎は、ヒューマニズムと反軍国主義思想を持つ哲学者でもありました。
1930年代の日本では国家主義と軍国主義が台頭していましたが、その中で個人の良心と社会的責任を重視するメッセージを作品に込めました。
彼の経歴や思想背景を知ると、本作の深みが一層理解できます。
コペル君と叔父の対話
物語の中心は、コペル君が叔父からの手紙を通して、自分自身や社会を見つめ直していく成長のプロセスです。
自己中心的な視点から、広い視野を持つ人間へと変わっていくコペル君の姿は、読む者に強い共感を呼びます。
作品の時代背景と意義
1937年という発表時期は、日中戦争勃発と重なります。
そんな時代に「個人の尊厳」や「生きる意味」を問いかけた本作は、まさに静かな抵抗の文学だったと言えるでしょう。
ジョン・コナリー著『失われたものたちの本』とは?

『失われたものたちの本』は、2006年に発表されたアイルランド人作家ジョン・コナリーによるダークファンタジー小説です。
第二次世界大戦下のイギリスを舞台に、少年デイヴィッドが喪失と向き合う旅に出る物語です。

物語の概要
母を失った少年デイヴィッドは、新しい家族に馴染めず、ある日異世界「彼方」へと迷い込みます。
そこで彼は、自分自身の内面と向き合いながら成長していきます。
ファンタジー世界の冒険を通して、彼は喪失、死、自己犠牲といった重いテーマに向き合うことになります。
暗いおとぎ話の再構築
この作品では、グリム童話や伝統的なおとぎ話がダークな形で再解釈されています。
赤ずきん、白雪姫などが歪められた姿で登場し、デイヴィッドに試練を与えます。
ただのファンタジーではなく、心の闇や成長痛を描く深いテーマ性が特徴です。
映画『君たちはどう生きるか』との関連
スタジオジブリ作品『君たちはどう生きるか』では、宮崎駿監督自身が『失われたものたちの本』に影響を受けたとされています。
特に「異世界への旅立ち」「喪失との対峙」といった重要なモチーフに共通点が見られます。
映画『君たちはどう生きるか』はどのように二つの原作を活かしているか?

ジブリ版『君たちはどう生きるか』は、単純な原作忠実型ではありません。
二つの原作からエッセンスを抽出し、宮崎駿自身の経験と世界観を加えたオリジナル作品となっています。
吉野源三郎版からの影響
作品のタイトルそのものは吉野源三郎版から取られています。
さらに、「生きるとはどういうことか」という根源的な問いも、吉野源三郎のテーマと響き合っています。
劇中では、主人公が母から贈られた『君たちはどう生きるか』の本を手にする場面も描かれます。
ジョン・コナリー版からの影響
映画の異世界描写や、主人公が「母親を失った少年」である設定などは、コナリーの『失われたものたちの本』に強く影響を受けています。
また、現実と異世界が交錯しながら進むストーリー構成も、コナリー作品と似た構造を持っています。
宮崎駿オリジナルの要素
宮崎駿監督は、自身の少年時代や戦争体験も作品に反映させています。
疎開、喪失、死への向き合い、そして創造というテーマが深く刻み込まれています。
単なる翻案ではなく、二つの原作を起点に「宮崎駿自身の物語」として再構築した点が最大の特徴です。
吉野源三郎版とジョン・コナリー版の比較表

項目 | 吉野源三郎版 | ジョン・コナリー版 |
---|---|---|
発表年 | 1937年 | 2006年 |
舞台 | 戦前の東京 | 第二次大戦中のイギリス |
主人公 | 本田潤一(コペル君) | デイヴィッド |
テーマ | 倫理的成長・社会認識 | 喪失・成長・死との向き合い |
ジャンル | 児童文学・教養小説 | ダークファンタジー |
表現 | 内省的・教育的 | 暗く幻想的・心理的 |
まとめ|二つの原作が響き合う『君たちはどう生きるか』

『君たちはどう生きるか』の原作とされるものは、単なる吉野源三郎の児童小説だけではありません。
宮崎駿監督の映画版は、ジョン・コナリーの『失われたものたちの本』にも深い影響を受けています。
つまり、映画『君たちはどう生きるか』の背景には、二つの原作作品が共鳴し合う形で存在しているのです。
それぞれ異なる文化と時代背景を持つ二つの物語が、共通して「生きる意味」と「自己の成長」というテーマを描いている点は非常に興味深いと言えるでしょう。